「うちは仲が良いから大丈夫」──そう仰るご家庭の方ほど、相続発生後にもめてしまう。これは私たちが日常的に目にしている、相続実務の不思議な真実です。
Iなぜ「仲の良い家族」でも揉めるのか
生前は仲が良かったご家族が、相続を機に揉めてしまう。その背景には、いくつかの共通する構造があります。
- 配偶者の関与──相続人ご本人ではなく、その配偶者が「もっと取るべきだ」と背中を押す
- 不公平感の蓄積──「自分は介護をしたのに」「兄は学費を多くかけてもらった」など、長年の感情が表面化する
- 財産の不透明さ──遺産の全容がわからず、「隠しているのではないか」という疑心暗鬼が生まれる
- 故人の意思の不明確さ──「お父さんは長男に継がせると言っていた」「いやそんな話は聞いていない」という水掛け論
これらはいずれも、亡くなった後では解決が極めて難しい性質のものです。だからこそ、生前の備えが意味を持ちます。
II備え一・財産を可視化しておく
第一の備えは、財産の全体像を明らかにしておくことです。
多くのご相続で揉める原因のひとつは、「何が遺産なのか、誰にも全貌がわからない」という状態です。預貯金がどの銀行にいくらあるのか、不動産はどこに何筆あるのか、保険や有価証券はどうなっているのか──これらが整理されていないと、相続人は調査と疑心暗鬼から始めることになります。
具体的には、次のような備えが有効です。
- 金融機関、不動産、保険、株式等を一覧化する(財産目録)
- 通帳、登記事項証明書、保険証券などの保管場所を家族に伝えておく
- 不要な口座は整理しておく(使っていない金融機関は解約)
- 暗号資産、ネット銀行、ネット証券など、家族が気づきにくい財産は特に記録
III備え二・公正証書遺言を残す
第二の備えは、公正証書遺言を残すことです。
遺言があるだけで、相続人は「誰が何を取るか」をゼロから協議する必要がなくなります。意見が割れる余地が大きく狭まり、これが揉めごとの最大の予防策となります。
とりわけ、次のようなご事情がある場合、遺言は事実上の必須項目とお考えください。
- 不動産が遺産の中心であり、分割しにくい(京築地方の農地・山林・宅地などはこの典型です)
- 特定の方に多めに遺したい意向がある(介護をしてくれた相続人、跡継ぎなど)
- 相続人の中に意見の異なる方がいる
- 再婚や養子縁組など、家族関係が複雑である
公正証書遺言の詳細については「公正証書遺言を残すべき人とは──京築のご家族のために」をご参照ください。
IV備え三・家族に「話す機会」を作る
第三の備えは、最も難しく、最も重要な備えです。それは──生前に、ご家族で相続について話す機会を作ることです。
日本では、「親が生きているうちに相続の話をするのははしたない」という空気が根強くあります。けれども、私たちが扱ってきた紛争事例の多くで、「ひとこと話しておけば、これほどこじれなかった」と感じる場面が、実に多いのです。
話す内容は、決して詳細である必要はありません。たとえば、次のようなことを伝えるだけでも、相続発生後の対立を大きく和らげる効果があります。
- 自分がどんな財産を持っているか、おおまかな全体像
- 誰に何を遺したいと考えているか、その理由
- 遺言を残している事実(内容まで明かす必要はありません)
- 事業や農地、自宅をどう承継してほしいか
- 葬儀やお墓についての希望
もし、ご家族に直接お話しすることが難しい場合は、当事務所のような第三者の専門家を介して、「お父様のお気持ち」「お母様のお考え」をご家族に伝える機会を設けることもできます。生前に弁護士を交えてお話し合いを行うことで、ご家族の合意形成を進めるお手伝いも、私たちの仕事の一部です。
相続紛争は、お金の問題のように見えて、その本質は「ご家族の関係性」の問題です。亡くなった後で解決しようとしても、もはや故人に問いかけることはできません。
財産を可視化し、遺言を残し、家族と話す。この三つの備えは、いずれも、生きておられる「いま」だからこそ、できることです。
残された方々が、悲しみに加えて争いまで抱え込まなくて済むように。私たちは、その備えのお手伝いをいたします。
本コラムは、執筆時点の法令・実務に基づいております。法令改正等により最新情報と異なる場合がございますので、個別具体的なご相談は当事務所(担当弁護士・細川)までお問い合わせください。
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