ある日突然、亡くなられたご家族宛に督促状が届く。あるいは、遺品整理の中から借金の契約書が出てくる。連帯保証人の通知が届く──。
こうした場面に、私たちはご相談の現場でしばしば出会います。多くの方が動揺し、「どうすればよいのか分からない」とご相談に来られます。けれども、慌てて何かをする前に、「絶対にしてはいけないこと」と「確かめるべきこと」を、知っておいていただきたいのです。
Iまず、絶対にしてはいけないこと
亡くなった方の借金が発覚したとき、最大の落とし穴は、知らずに「単純承認」してしまうことです。
民法第921条は、相続人が以下のような行為をした場合、「相続を承認したものとみなす」と定めています。
- 相続財産の全部または一部を処分した(預貯金の払戻し、不動産の名義変更、遺品の売却など)
- 三ヶ月の熟慮期間内に、放棄も限定承認もしなかった
- 相続財産を隠匿または消費した
単純承認したものとみなされると、もはや相続放棄はできず、プラスの財産もマイナスの債務もすべてを引き継ぐことになります。
II確かめるべきこと一・借金の総額
判断のための第一の確認事項は、「借金の総額が、どれくらいあるか」です。
督促状が1枚届いただけでは、全貌は見えません。他にも借入先がある可能性、保証債務を負っている可能性──こうした「見えない債務」を可能な限り洗い出します。
調査方法は、次のような手段があります。
- 故人宛の郵便物を一定期間、保管・確認する
- 通帳を確認し、定期的な引き落としや返済記録を追う
- 信用情報機関に、相続人として情報開示を請求する(以下の三機関がある)
| 機関名 | 主な対象 |
|---|---|
| CIC | クレジットカード、信販会社、ショッピングローン |
| JICC | 消費者金融、信販会社 |
| 全国銀行個人信用情報センター(KSC) | 銀行、信用金庫、信用組合の借入 |
三機関すべてに開示請求をすれば、おおむねの借入状況が把握できます。連帯保証や個人事業の取引上の債務は信用情報機関では掴めないため、別途、契約書類や通帳の確認が必要です。
II確かめるべきこと二・プラスの財産との差し引き
借金の額が見えてきたら、次はプラスの財産との比較です。
「借金があるから、即、放棄」と短絡的に判断するのは、もったいない場合があります。プラスの財産が借金を上回るなら、相続したうえで借金を返済する方が、結果的にご家族の利益になることも多いのです。
確認すべきプラスの財産は、次のとおりです。
- 不動産(自宅、土地、貸家、農地、山林など)
- 預貯金、現金、有価証券
- 生命保険金(契約内容によっては「みなし相続財産」扱い)
- 退職金、未払いの給与・年金
- 貸付債権、未収金
差し引きでプラスなら相続を検討、明らかにマイナスなら放棄を検討、というのが基本的な道筋です。
III確かめるべきこと三・残された選択肢の期限
最後に、「残された時間」の確認です。
相続放棄・限定承認の申述期限は、自己のために相続の開始があったことを知った時から三ヶ月です(民法第915条)。「亡くなった日から三ヶ月」ではなく、「相続が開始したことを知った日から三ヶ月」である点が重要です。
たとえば、長年疎遠だった親族が亡くなり、債権者からの通知でその死を初めて知った場合、その通知を受け取った日が起算点となる可能性があります。
三ヶ月で財産・債務の全容を把握しきれない場合、家庭裁判所への「熟慮期間の伸長」の申立てにより、期間を延長できることがあります。京築地方なら福岡家庭裁判所行橋支部が管轄です。
もしすでに三ヶ月の期限を過ぎてしまっている場合の対応については、別稿「相続放棄の期限3ヶ月を過ぎてしまったら、もう打つ手はないのか」をご参照ください。
IV三つの選択肢──単純承認・相続放棄・限定承認
三つの確認を踏まえると、ご相続人にはおおよそ三つの選択肢があります。
| 選択肢 | 適しているケース | 結果 |
|---|---|---|
| 単純承認 | 明らかにプラスの財産が多い | すべての財産と債務を引き継ぐ |
| 相続放棄 | 明らかに債務超過、潜在的リスクが大きい | はじめから相続人でなかったとみなされる |
| 限定承認 | 債務の総額が確定できない | プラス財産の範囲でのみ債務を負担 |
限定承認は、共同相続人全員で行う必要があり、譲渡所得税の論点もあるため、実務では多く用いられていません。多くの事案では、単純承認か相続放棄かの二択になります。
借金の発覚は、ご遺族にとって大きな精神的負担です。けれども、ここで慌てて遺品整理や預金解約に手をつけてしまうと、選択肢そのものを失う恐れがあります。
まず、故人の財産には手を触れず、借金の総額を確かめ、プラスの財産と比べ、期限を確認する。この三つの順序を守るだけで、ご遺族に残される選択肢は、ぐっと広がります。
もし「自分では手に負えない」とお感じになったら、いつでもご相談ください。判断の整理から、放棄の手続まで、お手伝いいたします。
本コラムは、執筆時点の法令・実務に基づいております。法令改正等により最新情報と異なる場合がございますので、個別具体的なご相談は当事務所(担当弁護士・細川)までお問い合わせください。
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