「お孫さんに、何か残してあげたい」──京築のおじいちゃま・おばあちゃまから、しばしばお聞きする言葉です。お正月にいらしたお孫さんの顔を思い浮かべ、進学のこと、将来の暮らしのことを案じておられる。そうした思いを、どのように形にしていくか。

本稿では、お孫さんに財産を残すための主な方法と、それぞれの注意点を、ご説明いたします。

I孫は、原則として相続人ではない

まず大前提として、お孫さんは、おじいちゃま・おばあちゃまの法定相続人ではありません

法定相続人は、配偶者と、第一順位の子(直系卑属)、第二順位の親(直系尊属)、第三順位の兄弟姉妹に限られます。お子様(つまりお孫さんの親御さん)がご健在であれば、お孫さんは相続権を持ちません。

例外は「代襲相続」です。お子様がおじいちゃまより先にお亡くなりになっている場合、お孫さんがそのお子様の地位を引き継いで相続人となります。けれども、これはあくまでお子様が先に亡くなっている場合の話で、健在ならお孫さんに直接の相続権はありません。

そのため、お孫さんに財産を残すには、能動的な仕組みを整える必要があります。

II遺贈──遺言で孫に直接残す

最も確実な方法は、遺言でお孫さんに財産を遺贈することです。

遺言の中で「孫の○○に、預金のうち◯◯万円を遺贈する」「孫の○○に、◯◯の土地を遺贈する」と明記すれば、相続開始とともにその財産がお孫さんに移ります。

遺贈には次の二つの種類があります。

お孫さんへの遺贈なら、通常は特定遺贈がお勧めです。包括遺贈は、相続人と同じ地位を持つことになり、遺産分割協議に巻き込まれる可能性があります。

Point お孫さんへの遺贈は、確実性を高めるため公正証書遺言で作成することを強くお勧めいたします。自筆遺言で要式不備があると、せっかくの遺贈が無効になります。詳しくは「公正証書遺言を残すべき人とは」をご参照ください。

III生前贈与──暦年贈与の地道な積み重ね

生前にお孫さんに財産を渡しておく方法もあります。

贈与税には年間110万円の基礎控除があり、これを下回る贈与は非課税です。これを活用して、毎年少しずつ贈与を続ければ、長期的には大きな金額を、税負担なしでお孫さんに移すことができます。

たとえば、年に100万円を10年間贈与すれば、合計1,000万円が非課税で移転します。お孫さんが複数いれば、一人ずつにこれを行うことができます。

ただし、注意点もあります。

名義預金の問題は意外と深刻です。「孫名義で口座を作り、毎年お小遣いを入れていた。でも通帳はずっと自分が管理していた」──このパターンは、税務調査で相続財産と判定されることが多くあります。お孫さんに渡すなら、実質的にもお孫さんに支配を移す必要があります。

IV教育資金一括贈与の特例(令和8年4月以降は新規利用不可)

お孫さんの教育費用を集中的に支援する方法として、これまで広く活用されてきたのが「教育資金の一括贈与に係る非課税措置」(租税特別措置法第70条の2の2)です。

Important 本制度は、令和8年(2026年)3月31日までの拠出をもって適用期限が終了し、令和8年4月1日以後の新規利用はできなくなりました(国税庁タックスアンサーNo.4510)。すでに開設済みの教育資金口座につきましては、引き続き非課税枠の範囲内でご利用いただけますが、新たに口座を開設して一括贈与を行うことは、現在はできません。

制度の概要は次のとおりでした(参考として)。

IV.5教育資金贈与の現実的な代替策

一括贈与制度が新規利用できなくなった現在、お孫さんへの教育資金援助の代替策として、次のような方法があります。

1.扶養義務者からの「都度贈与」
相続税法第21条の3第1項第2号により、扶養義務者(祖父母を含む)から教育費・生活費として必要な都度直接支払われるものは、もともと贈与税の対象となりません。入学金、授業料、教科書代、塾の月謝などを、必要なタイミングでその都度支払う方法は、金額の制限もなく、最も柔軟で確実な方法です。

2.暦年贈与の活用
年間110万円の基礎控除の範囲内で、お孫さんに毎年贈与する方法。長期的に積み上げれば相当の援助になります。ただし、お孫さんは原則として相続税の生前贈与加算の対象にはなりません(後述のとおり養子・代襲相続人・遺贈受取人等になった場合は加算対象)。

3.相続時精算課税制度の活用
2024年(令和6年)1月1日からは、相続時精算課税制度にも年間110万円の基礎控除が新設されました。この110万円以下の部分は、申告不要・相続財産への加算もなく、暦年贈与より使い勝手が向上しています。

V「孫養子」という選択肢の是非

お孫さんを養子に迎える、いわゆる「孫養子」という方法もあります。これにより、お孫さんは法定相続人となり、相続税の基礎控除も増えます。

ただし、孫養子には次のような注意点があります。

節税効果はある一方で、ご家族の関係性に大きな影響を与えます。慎重なご検討をお勧めいたします。

VI他の相続人への配慮

お孫さんへの財産承継を進めるとき、見落としがちなのが、他の相続人(お子様方)への配慮です。

たとえば、長男のお子(孫)に多額の遺贈をすると、次男・長女からすれば「兄の子だけずるい」という不公平感を生みます。これが、後の遺産分割協議で「特別受益」として持ち戻しの対象になり、紛争の原因となります(民法第903条)。

お孫さんへの配慮は素晴らしいことですが、それが他のお子様方のお気持ちを傷つけ、ご家族の関係を損ねてしまっては、本末転倒です。

Important お孫さんへの財産承継を進める前に、お子様方を含めた相続全体の設計をご検討ください。遺留分との関係、特別受益の主張、税負担の分配──これらを総合的に整理することで、ご家族の関係を保ちながら、お孫さんへの愛情を形にすることができます。
In Conclusion
愛情のかたちを、丁寧に。

お孫さんへの財産承継は、節税の問題でもあるけれど、その本質はやはり「愛情のかたちを、どう残すか」という問いです。
暦年贈与で毎年少しずつ。お孫さんが大学に進学するときの教育資金で。あるいは、ご自身の最期に遺贈で。いくつもの方法があります。
どの方法が、おじいちゃま・おばあちゃまのお気持ちにいちばん近いのか。それを、ご家族の関係を損ねないかたちで設計するお手伝いを、私たちはさせていただきます。

監修 弁護士 細川 大介(福岡県弁護士会所属/登録番号 第61505号)
本コラムは、執筆時点の法令・実務に基づいております。法令改正等により最新情報と異なる場合がございますので、個別具体的なご相談は当事務所(担当弁護士・細川)までお問い合わせください。
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